宮本武蔵の『五輪書』読んでみました。現代語訳で。


致知出版社の「いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ」です。

対訳付きの原文読もうと思ってたけど、その前に概略をつかんでからと思って、見つけたのがこの本。ちょっと軽い感じですが、まあどんな内容が書かれているのかを知るには十分です。

『五輪書』(ごりんのしょ)は、宮本武蔵が最晩年に著した「二天一流」の兵法書。といっても、自筆原稿は残っておらず、あちこちに写本が残るのみ。本のタイトルも武蔵が付けたものではなく、その兵法書が「地の巻」、「水の巻」と、地・水・火・風・空と、五つの巻からなっていることから名付けられたもの。タイトルどころか、武蔵が書いたのかどうかも定かじゃないんですけどね。

この現代語訳本にも書いてありますが、『五輪書』といえば昨年、F1のトップドライバーであるアロンソがその一節をツイートしたりと、世界的にもファンの多い書。

確かに「名言」は随所に見られ、ファンがいるのも分からないでもないですが、正直、書いてある内容そのものが評価されているっていうよりは、「あの伝説の剣豪、宮本武蔵が書いた!」ってことが最重要ポイントのような気がします。

兵法書と言っても、『孫子』のように戦略を中心に説いたものでなく、主に剣を持つ者を対象にしたものですし、現代人にとっての応用の幅はそもそも狭い。また当然といえば当然ですが、感覚的な表現も多い。どこか長嶋茂雄の野球指導ような。ま、宮本武蔵に思いをはせつつ「名言」部分を座右の銘にする、ってとこですかね、活用法は。全体を通して書かれていることをひと言で言えば「他流派は稚拙、うちは違う」って書です。(笑)

でも、この現代語訳本のシリーズ名どおり「いつか読んでみたかった日本の名著」ということで、一読の価値はありますよ。何かを得ようと思って読めば、得る者がない本は少ないです。特に時代を超えて残ってるような本は。

せっかくなので、原文(?)を元に「名言」と思われるところをいくつかご紹介。

『第一に、よこしまになき事を思う所。
第二に、道の鍛錬する所。
第三に、諸芸にさわる所。
第四に、諸職の道を知る事。
第五に、物事の損徳をわきまゆる事。
第六に、諸事目利をしおぼゆる事。
第七に、目にみえぬ所をさとって知る事。
第八に、わずかなる事にも気を付る事。
第九に、役に立ぬ事をせざる事。
大かた、かくのごとくの利を心にかけて、兵法の道鍛練すべき也』(『地の巻』より)

(意訳:……そのまま。)

『兵法の拍子において、さまざま有事也。先、合う拍子を知って、違う拍子をわきまえ、大小遅速の拍子のうちにも、あたる拍子を知り、間の拍子を知り、背く拍子を知る事、兵法の専也』(『地の巻』より)

(意訳:自分なりのタイミングの取り方を知ることが大事だよ)

『兵法の道において、心の持様は、常の心に替る事なかれ』(「水の巻」より)

(意訳:平常心、平常心。)

『観見二つの事、観の目強く、見の目弱く、遠き所を近く見、近き所を遠く見る事、兵法の専也』(『水の巻』より)

(意訳:目の使い方には「(広く)観る」と「(点で)見る」があるよ。些事やうわべにとらわれず、大局をつかむように「観る」ことが大事だよ)

『千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす』(『水の巻』より)

(意訳:しっかり鍛錬しなさい)

『いずれも敵を追懸る方、足場のわろき所、又は脇にかまいの有所、いずれも場の徳を用て、場の勝を得と云心専にして、能々吟味し、鍛錬有べきもの也』(『火の巻』より)

(意訳:戦いでは敵を難所に追い込んで、地の利を自分のものにすることが大事だよ)

『先、我は何事にても、道にまかせてわざをなすうちに、敵もわざをせんと思うかしらを押さえて、何事も役にたたせず、敵をこなす所、是、兵法の達者、鍛錬の故也。枕をおさゆる事、能々吟味有べき也』(『火の巻』より)

(意訳:まず先手を取って相手の頭を押さえ、好きにさせないことが大事だよ)

『景気をみると言うは、大分の兵法にしては、敵の栄え、衰えを知り、相手の人数の心を知り、其場の位をうけ、敵の景気をよく見分け、我人数何としかけ、此兵法の理にてたしかに勝つと言うところを飲み込みて、先の位を知って戦所也』(『火の巻』より)

(意訳:流れをつかめ)

『敵になりて思うべし』(『火の巻』より)

(意訳:敵の気持ちになりきって考え、敵を知ろう)

『敵、山と思わば、海としかけ、海と思わば、山としかくる心、兵法の道也』(『火の巻』より)

(意訳:敵の心理を読んで裏をかくようにしよう)

『鼠頭午首』(『火の巻』より)

(意訳:鼠のような細やかな心と、牛のような大胆な心を、同時に持とう)

まだまだあるけど、この辺で。興味持たれたら、読んでみてください。

そうそう、『五輪書』を読むと、井上武彦の『バガボンド』や、吉川英治の『宮本武蔵』が五割り増しで楽しめると思いますよ。


吉川英治はこの2013年に没後50年が経過してパブリックドメインになったため、各社から色々な形(装丁やイラスト、注釈、相関図などなどの工夫)で刊行されています。宝島文庫の原哲夫バージョンが気になるところ。(笑)
本文を読むだけで十分なら、「青空文庫」で公開されてってます。